一部の方のご指摘の通り。

前回の日記における「Helpless/青山真治」は「冷たい血/青山真治」の大間違い。実は最初に書いたときも「Helpless」以外の青山作品だった気がして、ちょっと調べては見たのだけど、同時期の彼の作品の中でどうしても見たと確信できるものがなかったので、Helplessと書いてしまったのでした。

 というか、今でも「冷たい血」の中の他のシーンは一切思い出せない。なんせキャストリストをみてもなんも思い出さないのだから、しょうもない。ただ、ラスト近くのシーン、「あるものはない、ないものはある」と叫びながら飛び跳ねる主人公、その脇を通り抜けるガスマスクの男、だけが、なんだか忘れられない。

 これに関して問題が二つある。

 なぜか映画そのものよりも、その周辺の記憶を、映画そのものより覚えている、という問題。なぜ、この映画をみたのか(Ans.某授業の課題だったもんで、、、)。この期末テスト時にこの映画について何を書いたか(Ans.この映画は世界の断絶に関する映画であり、主人公は最後に大文字のAに出会う。彼の最後の跳躍は大文字のAの不可能性を引き受けつつあえてそれを超越しようとする試みであり、それは彼にとっての大文字のAの持つアフォーダンスである。この行為を通じてはじめて主人公は世界の質感を自ら確認できた。←意味不明/藁)。など。

 そしてもうひとつの問題は、さっき「覚えてる」と書いたシーンすら、実はどこまで実際のシーンと同じか、まったく自信がない、という点。というか2つのシーンをひとつにがっしゃんこしてしまっているような気さえする。
 この点において「冷たい血/青山真治」という作品は、僕の中で、そのほんの一部だけがゾンビみたいに生きている映画となっている(ことに今回初めて気がついた)。どこまで原型をとどめているかすらわからない。ていうか原型がどんなもんだったか、全体としてはもはやもうなんだかお手上げ。
 おまけにストーリーすら覚えてないのに、前述のようなわけわからん自分内注釈もあったりする。よってこの二つの問題の結果として、「冷たい血」は、一連のシーン(の構成要素)だけが僕の人生のカットアップ素材として残っている作品だ。どうとでも読み替えられるような、あるとき突然湧き上がってくる、非常にあいまいなシーンの記憶、の割と強烈なヤツ。

 そういう非常にあいまいな記憶のかけら、人生のカットアップ素材は、まあ誰でも往々にしてころがっている(と思う)。山形浩生によると、晩年のバロウズはそういう記憶をただひたすら愛しむような日々を送っていたらしい。が、人の記憶なんてたいがいそんなもんじゃん、と言ってしまえばそんだけの話。


 一方で、このような経年変化を起こさない記憶がある。「フラッシュバック」といわれるような現象に基づく記憶の形態である。
 これはまったくに喜ばしい事態ではない。ちかごろちょびっと有名なPTSDの診断基準の核となる「症状」のひとつだ。
 PTSDの診断基準用語としての「フラッシュバック」はトラウマ発生時のアクシデントに関する「減衰の無い」記憶である。人間の記憶の基本的な傾向と異なり、この記憶は「ヴィジュアル・サウンド的に生き生きとしたまま」「当初のありのままの姿からまったく変化しない」。それが起きたとき、そのものの記憶が、一切の編集を加えられず、任意のタイミングで想起されてしまう症状のことである。

 なんでこんな症状があるかは、不明である(はず)。が、ヒントになるかもしれないのが、それが「ある種のリアリティとの引き換え」に起きているようだ、という点である。
 第一次世界大戦時の同様な(当時はPTSDという診断名は存在していなかった)症例報告などでは、「同じとき、同じ場所で、同じアクシデントにあった」にも関わらず、フラッシュバックを伴うPTSDに陥ったひとと、そうならなかったひと、という比較が可能だったりする。
 こういったケースでキーになるのが、体験に伴う具体的な身体損傷、だったりするらしい。平たくいえば、「事件にあって大怪我したやつはフラッシュバック起きないけど、無傷だったやつに限ってフラッシュバック起きちゃったりする」ということである。自分の受けた一次的な心的衝撃に対して、それを具体的に実証するような痕跡があると、人はフラッシュバックを起こさない傾向が強いようなのだ。「記憶の中にある強烈な出来事」を担保するリアリティ/リアルエビデンスがないと、人はフラッシュバックを起こすようだ、とも言える。

 
 ではなぜ、フラッシュバックは「特殊な記憶」であるのか?われわれの記憶の経済的効率化の問題なのか、環境適応上の方略なのか。それとも「忘却は罪であると同時に恩寵」なのか。僕らは全てを忘れる自由を手にしている?
 
 
 
  

 
 
 
 
  
 
 
 

 
 でさ、オチがねえんだよ。

コメント

お気に入り日記の更新

テーマ別日記一覧

まだテーマがありません

日記内を検索